日本の建国はいつなのか?ー初代神武天皇の即位ー

日本はいつ建国されたのか?

歴史の教科書を読んでいてもイマイチよくわからないことがあります。それは日本がいつ建国されたのかということです。

日本史の教科書を読んでも、たいていは次のような内容です。

旧石器時代

やけに詳しく石器の種類などを解説。ナウマンゾウやオオツノジカといった獲物を紹介。

縄文時代

やっぱり石器の解説。そして忘れてはいけない縄文土器の説明。三内丸山遺跡や上野原遺跡などの遺跡の説明。しかし、なぜこれらの遺跡が重要なのかの解説が足りない。そして土偶を通して縄文時代の信仰について触れている。

弥生時代

弥生時代に入っても石器の解説。稲作の普及とともに使用が広がった石包丁などが登場。また、弥生土器の説明。そして青銅器の説明などが続く。さらに高地性集落や環濠集落などの説明を通して日本列島に戦争という文化が始まったことを伝える。

ここまで考古学の成果である遺物の説明がメインで歴史書に記載されたことが出てこない。そしてやっと歴史書の記載内容が出てきたと思ったら、日本の歴史書ではなく『漢書地理志』の倭人の記載・・・。

これって日本史の教科書だったっけ?と不信感を懐きつつ教科書を閉じる・・・。

こんな調子では、やる気に満ち溢れながら4月に授業を受け始めた学生がゴールデンウィークの頃には歴史嫌いになってしまっても仕方がないでしょう。

しかし、気を取り直して次の時代を見てみましょう。

古墳時代

ここに至ってやっと「大和政権」が登場。しかし、「大和政権」については抽象的に記述が多く、「大和政権」と現在の日本がどのようにつながっているのかが教科書の記述ではわからない。

そして、「大和政権」の代表者が「大王(おおきみ)」であることの説明はあるが、「大王」と天皇のつながりにも言及はない。そして突如として稲荷山古墳出土の鉄剣に記載されているワカタケル大王が雄略天皇であるとの記述が登場。雄略天皇は第21代天皇です。これではいったい日本という国はいつ始まったのかわかりません。

教科書を読んでも日本がいつ建国したのかわからない

このように日本史の教科書を読んでいても日本の建国がいつだったのかわかりません。そもそも、考古学資料とシナ大陸王朝の歴史書をもとに教科書を記述していては過去に生きた日本人が自分たちの国の建国をどのように語り継いでいたのかわからないに決まっています。

こんな教科書で勉強していたから、多くの日本人は自分たちの国がいつ建国されたのか知らないのです。

日本の建国は紀元前660年!?

ここで現存する日本最古の歴史書である『古事記』と『日本書紀』(『古事記』と『日本書紀』総称して記紀といいます)の記述をもとに日本がいつ建国されたのかを見てみましょう。

記紀を読むと日本の建国は紀元前660年、今から約2,680年前です。この時に何があったかというと初代神武天皇が橿原の宮で即位した年なのです。

もちろん記紀に紀元前660年という具体的な年が記されているわけではありません。記紀には歴代の天皇の在位期間が記されているので即位した年がはっきりしている天皇から歴代の天皇の在位期間をさかのぼっていくと初代神武天皇が即位した年は紀元前660年だと分かるのです。

ちなみに諸説ありますが天皇という称号は早くても7世紀頃に成立したとされているので初代天皇は天皇という称号を使っていませんでした。

また「神武天皇」というのは諡号(しごう)です。初期の天皇の諡号は淡海三船という8世紀の人物です。記紀には「神武天皇」という諡号の初代天皇のことは「ハツクニシラススメラミコト」と記されています。ハツクニシラスとは初めて国を治めたという意味です。スメラミコトは天皇に相当する称号です。古代の日本の君主の称号は「スメラミコト」でした。

なぜ神武天皇は教科書から消されたのか?

それではなぜ、初代神武天皇の即位の時期が歴史の教科書には載っていないのでしょうか?それは戦前の皇国史観にアレルギーを持っていた戦後の歴史学者が皇国史観の裏返しとして記紀に記されている神話や皇室の始まり等は史実とは認められないという立場を取ったからです。そのため、神話や皇室の始まり等は歴史の教科書から消されてしまいました。

そして、神武天皇が即位した660年という時期も荒唐無稽だという批判がなされました。

確かにかつては紀元前660年と言えば縄文時代だと考えられていましたので無理もありません。しかし、考古学の研究が進んだ結果、現在、紀元前660年は弥生時代だと考えられています。弥生時代は本格的な稲作農耕が始まり、小さな国や権力者が誕生しだした時代です。歴史は硬直したものではなく日々研究され、その都度変わっていく可能性があるものなのです。

もちろん、神武天皇が紀元前660年に即位したかどうかはわかりません。しかし、古代の日本人が語り継いできた歴史を知っておくことは決して無駄ではないはずです。そして歴史を学ぶ人は記紀に記された神武天皇の即位を知った上で、それぞれの人が記紀に記されたことの信憑性について考えるべきなのです。

だいたい、古代の出来事を確実に再現することはできません。だからこそ、考古学の成果や現存する歴史書をもとに何があったのかを考えるのです。それにも関わらず皇室の始まりにだけ確実性を求め、それが確実にあったと認められない限りは教科書に載せないという姿勢には少し違和感を感じます。

以上、今回はあまり歴史の教科書に取り上げられることがない神武天皇の即位についてご紹介しました。