労働基準法では労働者が選挙権等の公民権を行使する権利を保障するための規定を設けています。それが労働基準法第7条です。
「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。」
この条文は大きく前半部分と後半部分に分けることができます。
まず前半部分で公民権を行使するための時間の請求について規定し、後半部分でただし書きをして例外を認めています。
まずは前半部分です。ここでは労働者から請求があった場合には「労働時間中に」公民権の行使等の時間を与えなければいけないとされています。
公民権の行使等は「公民としての権利の行使」と「公の職務の執行」の2種類があります。それぞれ具体的には下記のようなものが公民権の行使等に該当します。
・選挙権及び被選挙権 ⇒応援のための選挙活動は該当しません。
・最高裁判所裁判官の国民審査
・地方自治法による住民の直接請求
・選挙人名簿の登録の申出
・行政事件訴訟法に規定する民衆訴訟 ⇒一般の訴権の行使は該当しません。
・公職選挙法に規定する選挙等に関する訴訟 他
・衆議院議員等の議員の職務
・労働委員会の委員
・検察審査員
・労働審判員
・裁判員
・審議会の委員
・民衆訴訟法の規定による証人の職務
・公職選挙法の規定による選挙立会人等の職務 他
但し、予備自衛官の防衛招集や訓練、非常勤消防団員の職務は公の職務には該当しません。
こうした公民権の行使等に必要な時間を請求された場合、使用者側は拒むことができません。拒むことそのものが禁止されているので拒んだだけで労働基準法第7条違反になります。
これは拒んだことにより実際に公民権の行使等がされたか否かは問われません。
公民権の行使等の時間を労働時間中に請求された場合でも公民権の行使等の時間について有給である必要はありません。有給か無給かは当事者の自由に委ねられています。
「但し」から始まる条文の後半部分についてです。
公民権の行使等の時間が請求された場合でも、公民権の行使等を妨げない限り、「請求された時刻を変更することが」できます。
現在は選挙権の行使や最高裁判所裁判官の国民審査などは不在者投票ができるようになっているので労働時間中にどうしても選挙にいかなければいけないような状況はないのかなと思います。
最高裁判所の判例
「使用者の承認を得ずに公職に就任した者を懲戒解雇に附するという就業規則条項は無効である。」という判例があります。ちなみに「公職への就任が会社の業務の遂行を著しく阻害するおそれがある場合」は「普通解雇」であれば許されるとされています。
この判例は過去に出題もされているので押さえておくといいと思います。