1年単位の変形労働時間制とは、1箇月を超え1年以内の一定の期間内(対象期間という)を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において1週間又は1日の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。
ポイントは2つです。
1、対象期間は1箇月を超え1年以内の期間であること。つまり、1年単位の変形労働時間制という名称ではあるものの、その対象期間は1年とは限らないことです。
2、特例事業であっても1週間当たりの労働時間は40時間を超えてはいけないこと。つまり労働時間の特例(44時間)は適用されないことです。
超えることができる法定労働時間は下記の通りです。
①特定された週に40時間。
②特定された日に8時間。
1年単位の変形労働時間制の適用を受けるためには労使協定によって一定の事項を規定しなくてはいけません。
早速、1年単位の変形労働時間制の採用要件と規定する事項を見ていきましょう。
1年単位の変形労働時間制では「労使協定」で一定の事項(詳細は後述します)を規定する必要があります。
1箇月単位の変形労働時間制やフレックスタイム制との採用要件の違いを確認しながら進んでいくと早く理解できますので是非ご参照ください。
それでは1年単位の変形労働時間制の採用要件を早速確認してみましょう。
労使協定の締結 ⇒ 所轄労働基準監督署長に届け出なければいけない。
1年単位の変形労働時間制の採用要件は労使協定の締結だけです。また1箇月単位の変形労働時間制と同様に労使協定の所轄労働基準監督署長への届け出義務があります。
1年単位の変形労働時間制で「労使協定」に規定するべき事項を確認していきます。
①対象労働者の範囲。
②対象期間(1箇月を超え1年以内の期間に限る)。
③対象期間の起算日。
④特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間のこと)。
⑤対象期間の労働日。
⑥対象期間の労働日ごとの労働時間。
⑦労使協定の有効期間の定め。
以上が規定しておく事項です。
⑦は労働協約の場合には定める必要がありません。
また、労使間の合意があったとしても、対象期間の途中で変形労働時間制を変更することができません。
1年単位の変形労働時間制はその対象期間が長期に渡るために労働時間等の限度が規定されています。また、対象期間が3箇月を超える場合には労働日数の限度なども規定されてきます。
ここからは、対象期間が3箇月を超える場合か否かに注目しながら確認していきましょう。
1日の限度 :10時間。
1週間の限度:52時間。
対象期間が3箇月を超える場合には次の2つも守る必要があります。
①労働時間が48時間を超える週が連続する場合には3週間連続が限度です。
②対象期間の初日から3箇月ごとに区分した各期間(対象期間が3箇月未満である場合はその対象期間すべて)において、労働時間が48時間を超える週の初日が3回以下であること。
①と②をざっくりと言うと、労働時間が48時間を超える週は3箇月間に3回が限度であり、連続3週間が限度ということです。
対象期間が3箇月を超える場合に適用。
1年当たりの労働日数:280日。
連続労働日数は対象期間と特定期間によって異なります。それぞれ確認します。
対象期間:連続6日。
特定期間:1週間に1日の休日が確保できる日数。具体的には最大で12日となります。
1年単位の変形労働時間制は対象期間が長期間に渡るため、事前に労使協定によって対象期間すべての労働日や各日の労働日数を決めておくことが困難な場合があります。
そうした場合に対象期間を1箇月以上の期間ごとに区分することができます。その場合、最初の期間だけ原則通り労働日等を決めておけば良く、2期目以降の労働日等は後から決めることができます。
①最初の期間:原則通りに労働日と労働日ごとの労働時間を労使協定によって定める。
②その後の期間:各期間の労働日数と総労働時間(総枠)を定める。
③2期目以降は各期間の初日の少なくとも30日前までに労働日と労働日ごとの労働時間を決めて労働者の過半数代表者の同意を得て書面で定める。
1年単位の変形労働時間制は対象期間が長期間に渡るため、対象期間の途中で退職した場合に、その退職の時点では労働した期間を平均して1週間当たり40時間を超えて労働している場合があります。
そうした場合には労働基準法第37条の規定により、割増賃金を支払う必要があります。支払わない場合には労働基準法第24条(賃金の全額払い)違反となります。
労働者の過半数代表者とは、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合のこと。ただし、このような労働組合がない場合には労働者の過半数代表者のことです。
以上、今回は1年単位の変形労働時間制についてご紹介しました。