賃金はあらかじめ決められた賃金支払日に支払うのが原則ですが、労働基準法では一定の非常時に、賃金支払日前でも既往の労働に対する賃金の支払いを義務付ける規定があります。
早速、条文を見ていきましょう。
「使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。」
労働基準法第25条の条文にある「厚生労働省で定める非常の場合」とは労働者又は「労働者の収入によって生計を維持する者」が次のいずれかに該当する場合です。またここでいう「労働者の収入によって生計を維持する者」は扶養親族に限られず、その労働者の収入によって生計を維持していれば同居人も含まれます。
「労働者」又は「労働者の収入によって生計を維持する者」が、
①出産した場合。
②疾病にかかった場合。
③災害を受けた場合。
④結婚した場合。
⑤死亡した場合。
⑥やむを得ない事由により1週間以上にわたって帰郷する場合。
以上、一つ一つ見てみると突然大きな出費を必要とする場合に労働基準法第25条が適用されることがわかります。
「既往の労働」とは読んで字のごとく既に行われた労働のことです。よって未だに労働の提供がない部分については支払う必要がありません。
例えば、月給30万円の労働者が賃金締切日前に労働基準法第25条の請求を行った場合はあくまでも前の賃金締切日の翌日から請求を行った日までの賃金を支払うことになりますから、30万円満額を支払う必要はないということです。
念のため、記しますが労働基準法第25条はいわゆる賃金の前借りを合法化している条文ではありません。