健康保険と厚生年金保険の標準賞与額について~上限額の違い等~

標準賞与額とは

健康保険や厚生年金保険といった社会保険制度では、月々に受けとる報酬以外の賞与についても保険料算定の対象となります。

報酬と賞与の定義についてはこちら⇒健康保険の報酬と賞与の範囲

そして賞与についても、実際に受けた賞与額ではなく「標準賞与額」を用います。

標準賞与額の算定方法

賞与を受けた月において、その月に当該被保険者が受けた賞与額に1,000円未満の端数を生じた時は、その端数を切り捨ててその月の標準賞与額を決定することになります。

標準賞与額の算定は賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てるだけという簡単な算定方法です。

例)賞与額が505,500円だった場合。

  ⇒500円を切り捨てて標準賞与額は505,000円になります。

健康保険と厚生年金保険の違い

健康保険における標準賞与額

標準賞与額の算定

保険者等が被保険者が賞与を受けた場合に標準賞与額を算定します。

標準賞与額の上限:累計で573万円

その年度(毎年4月1日~翌年3月31日まで)における標準賞与額の累計額が573万円を超えることになる場合には、当該累計額が573万円になるように標準賞与額を決定します。

累計額が573万円を超えた後は仮に賞与を受けた場合でも、その年度内は標準賞与額は0円となります。

また、標準賞与額の累計は保険者単位で行ないます。

厚生年金保険における標準賞与額

標準賞与額の算定

実施期間は被保険者又は70際以上被用者が賞与を受けた時に標準賞与額を算定します。

標準賞与額の上限:1回150万円

標準賞与額が150万円を超えるときは、これを150万円とします。

つまり、賞与額が150万円を超える場合には、仮にその額が1,000万円であっても1億円であっても、標準賞与額は150万円になります。

上限額の違い

以上、健康保険と厚生年金保険では標準賞与額の上限額が違うことがわかると思います。この点は、よく社会保険労務士試験でも問われますので受験を考えている方は押さえておいてください。

独り言

ここからは私の完全な独り言です。不愉快な方は読み飛ばしていただいて結構です。

今回は標準賞与額についてご紹介しました。

ご紹介した通り、標準賞与額の規定には上限額があります。そして一定の人は、この規定を利用して得をすることもできるのです。

具体的に書きますと、年間1,000万円を超えるような多額の報酬を受け取っている人が、月々の報酬額を安く抑えて(例えば月に10万円にして)、標準報酬月額を低い金額で算定して、残りの金額(月々10万円の報酬にしたなら、残りの880万円)を賞与として一括で受けとることにしてしまえばどうなるでしょう。

この場合、健康保険の標準賞与額は880万円ではなく、573万円になります。そして厚生年金保険の標準賞与額は150万円になるのです。

この手段を使えば、健康保険と厚生年金保険の保険料を安く抑えることができます。また、在職老齢年金が支給停止にならずに受けとることができます。実際にこういう手段をすすめる税理士や社会保険労務士もいますし、保険料を安くしたり、支給停止となった年金を受けとりたい人は多いでしょう。

これは違法行為ではありません。といっても東証一部上場企業の役員などはいろいろな意味でこんな真似はできないでしょうから、実際にこうした手段を使えるのはたくさん利益が出ている中小事業の事業主ぐらいでしょう。

私がこんなことを書いたのは、ここで立ち止まって考えてほしいことがあるからなのです。

そもそも社会保険とはどんな制度でしょうか?それは支えあいの制度です。本来は富める者が貧しい者を支える制度なのです。

これはある意味で「結果の平等」を求める制度であり、富める者からすれば損をする制度ともいえます。

しかし、それでも社会保険の制度が存在するのは、人間誰しも何かの拍子に貧しい状態におかれる可能性もあるなかで、皆で支えあっていこうという精神があるからです。それは損得勘定だけでものごとを判断していてはできない制度なのです。

さて、私が上記した手段は富める者がその義務を放棄する手段です。本来は支える立場にある人が、自分の財布の中の損得だけを考えて行なう手段なのです。

もちろん何度も書きますが、これは違法な手段ではありません。

ただ、ノーブレスオブリージという言葉もありますし、事業に成功して多くの報酬を受けられるようになったのに、自分の財布の中の損得しか考えられないようではいけないのではないかなと思うのです。

もちろん、人それぞれにいろいろな価値観がありますので、私の価値観を押し付けるつもりはありませんが、社会保険という制度を通して、社会全体を見るような習慣付けができると人生はより豊かになるのではないかなとは思います。

以上、独り言でした。気分を害された方がいましたら、申し訳ありません。